中高生におすすめの文豪小説19選 (日本近代文学)

2022年8月16日

中高生におすすめ日本近代文学 文豪小説

「山月記」中島敦

山月記

人はいかなる時に、人を捨てて畜生に成り下がるのか。

中国の古典に想を得て、人間の心の深奥を描き出した「山月記」。母国に忠誠を誓う李陵、孤独な文人・司馬遷、不屈の行動人・蘇武、三者三様の苦難と運命を描く「李陵」など、三十三歳の若さでなくなるまで、わずか二編の中編と十数編の短編しか残さなかった著者の、短かった生を凝縮させたような緊張感がみなぎる名作四編を収める。

臆病と尊大の狭間で堕ちていった者の嘆き

もともと学業が優秀だった中国の主人公、李朝(りちょう)は今や人喰い虎と化して、誰の目にも触れないように山奥に暮らしていた。あるときそこを通りかかったのは、なんと昔の親友だった。あやうく襲いかかるところだったが、幸い気づき無事だった。李朝はずっと誰かに話したかったのだろうか。虎になってしまった我が身の不幸や嘆きを、昔の親友に語り始める。虎になってしまった理由や李朝の悲しみが明かされ、人とは何か、について深く考えさせられる物語です。(40代女性)

「舞姫」森鴎外

舞姫・うたかたの記

<あらすじ>
幼いころから優秀で、勤める省庁から洋行を命じられた太田豊太郎は、数年後、孤独感にさいなまれ、ふとしたきっかけで美貌の舞姫エリスと激しい恋に落ちた。すべてを投げだし恋に生きようとする豊太郎に、友人の相澤は、手を尽くして帰国をすすめるが…。19世紀末のベルリンを舞台に繰り広げられる、激しくも哀しい青春を描いた「舞姫」ほか、「うたかたの記」「文づかい」「普請中」、そして翻訳「ふた夜」を収録。

時代に翻弄され破局を迎えた、儚いラブストーリー

私は高校3年生の時に『舞姫』を授業で読みましたが、とにかく結末が衝撃的です。
この話は著作者・森鴎外の実体験がもとになっています。激動の明治を生きた鴎外の息づかいが伝わってくるような、生々しい作品です。
主人公・豊太郎と恋人の女性との恋愛関係が印象的な『舞姫』ですが、じっくり読むと、明治時代の急速な発展の背景には国のために生きる若者たちの苦悩があったのだろうと考えさせられます。
歴史の授業で習う明治時代を肌で感じることができるので、中高生にぜひ読んでほしい文学小説のひとつです。

「春は馬車に乗って」横光利一

機械・春は馬車に乗って

死別を宣告された夫婦が別離を受け入れるまでの物語

著者である横光利一は肺を病んだ妻と死別していますが、本作はその妻との闘病生活を物語に落とし込んだ作品です。

妻の病気の薬代や入院費を稼ぐために主人公は必死で働きますが、肝心の妻は死の恐怖からか、自分をかまおうとしない夫を激しい言葉で詰り、夫は医者からの死の宣告に怯え嘆く。そこから夫婦が死別を受け入れ覚悟するまでが描かれています。そんな随所に死の暗さが漂い、ともすれば気が滅入りそうな話が、横光利一らしい比喩表現で美しく昇華されています。

短編で一つ一つの表現が秀逸なので、中高生でも非常に読みやすい作品だと思います。また暗喩も多く、一つとして無駄な言葉や文章がありません。なぜここでこんな言葉が出てきたのか、特に花の名前の意味については是非調べてほしいです。

そして何よりも小説のタイトルの意味。ラストまで読むとなぜそのタイトルになったのかがわかり、痺れます。短い話なので最後まで読んでその余韻を感じてほしいです。(30代女性)

「こころ」夏目漱石

こころ

「こゝろ」は後期三部作の終曲であるばかりでなく、漱石文学の絶頂をなす作品。自我の奥深くに巣くっているエゴイズムは、ここでぎりぎりのところまで押しつめられる。誠実ゆえに自己否定の試みを、自殺にまで追いつめなければならなかった漱石は、そこから「則天去私」という人生観にたどりつく。大正3年作。

命をかけて貫き通すこと

登場人物は「私」「先生」「静」「K」という4人の秘めた心のうちと時代背景を、読む人それぞれが違う思いをめぐらすことでしょう。
淡々と語られる難解とも思える先生との会話、苦しい恋愛模様、そして衝撃的な展開が夏目独自の流れるような文体で最後まで引き込まれます。読み終わった後いろいろな思いに心がかき乱されますがずっと忘れられない作品です。(60代女性)

「三四郎」夏目漱石

三四郎

<あらすじ>
続いて書かれた「それから」「門」とあわせて前期三部作とされる。主人公の三四郎は母のいる九州の田舎から東京に出て、大学で学問や思想の深い世界に触れる。またミステリアスな美禰子との恋愛で「迷える羊」としての自分を自覚していく青春小説。

田舎者の主人公が優艶な年上女性に翻弄される物語

夏目漱石の「坊ちゃん」や「こころ」などは良く読書感想文に最適だと広告やいろいろな特集で扱われていますが、それよりも最適だと思うのが「三四郎」です。
主人公の三四郎は、田舎から都会に上京してきた大学生で、都会に出て来て「勉強しよう」と意気込んで来たものの、いろいろな誘惑が多く、それらに翻弄されてしまいます。特に思わせぶりな年上の女性との出会いが田舎者の三四郎には衝撃的過ぎて勉強どころではなくなってしまい、という展開が、今の大学生にも十分当てはまる設定だと思います。中高生は、これから大学進学などで都会で一人暮らしをする可能性もあり、将来に対する警告的な意味でも一度は読んでみた方が良い作品だと思います。(40代男性)

「雪国」川端康成

雪国

<あらすじ>
親譲りの財産で、きままな生活を送る島村は、雪深い温泉町で芸者駒子と出会う。許婚者の療養費を作るため芸者になったという、駒子の一途な生き方に惹かれながらも、島村はゆきずりの愛以上のつながりを持とうとしない――。冷たいほどにすんだ島村の心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、哀しくも美しく描く。ノーベル賞作家の美質が、完全な開花を見せた不朽の名作。

日本人の感性を改めて感じる作品

日本人としての感性を鮮明に描かれていますし、現代では忘れていたそんな感性を思い出すことができるので、特に若い学生の方にはとてもおすすめです。また、読んでいるだけでその背景が自然と浮かんできますし、文章のみで風情まで感じてくるようなこの描き方や世界観はとても素晴らしいので、何度でも読み返したくなります。(30代男性)

「破戒」島崎藤村

破戒

<あらすじ>
新しい思想を持ち,新しい人間主義の教育によって,不合理な社会を変えて行こうとする被差別部落出身の小学校教師瀬川丑松は,ついに父の戒めを破って公衆の前で自らの出自を告白する.周囲の因習と戦う丑松の烈しい苦悩を通して,藤村(1872-1943)は,四民平等は名目だけの明治文明に鋭く迫る

自分の生き方を探す、人生の物語

部落差別が主題になっている本作。打ち明けることのできない秘密を背負ったまま、自分を偽りながら生きていく青年の心の内面が繊細に描かれています。
部落差別などナンセンスと思いますが、それに似た差別はまだまだ世界にも日本にも多く残っているのも現実です。
現代社会にも通じるテーマであると思いますが、人は生れや身分で生きていく道が異なってしまうのでしょうか?
人はどのように生きていくべきか、深いテーマが描かれています。(40代女性)

「あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史」山本茂実

あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史

<あらすじ>
過酷な労働に耐え、明治の富国強兵政策を底辺で支えた無数の少女達。その女工哀史の真実とは。四〇〇名に及ぶ元工女を訪ね、歴史の闇に沈んでいた近代日本の民衆史を照らし出す、ノンフィクションの金字塔。

現代日本を支える女工の青春群像物語

明治中期、長野県岡谷市にある製系工場に、岐阜県飛騨地方から冬の雪深い野麦峠を越えて働きに出た少女達の姿を描いたものです。昭和四十三年に発表された山本茂実の小説です。
厳しい労働と苛烈な人間関係を耐えぬき、健気に生き抜いた工女たちの不屈の青春群像物語です。近代日本の民衆史を照らし出したノンフィクションの金字塔とも言われています。今でいう、〝ブラック企業〟のはしりです。今では考えられないようなことが、この時代にはあったのかと思うと、女工たちの健気な姿に涙がでます。(60代女性)

「セメント樽の中の手紙」葉山嘉樹

セメント樽の中の手紙ほかプロレタリア文学

労働法が未整備の時代

高校の国語の教科書や日本史などで取り扱われる大正期から戦前の日本における過酷な労働を強いれられた人々を描いた作品と一つとして有名な本作。プロレタリア文学(労働者階級を描いた文学)としては小林多喜二の『蟹工船』を思い浮かべる人が多いと思うが、その小林多喜二が『蟹工船』を書くきっかけとなったのが本作と言われている。言ってみれば日本のプロレタリア文学を開拓した記念碑的作品。現代のワーキングプアに通ずるものが根底にある点を若い読者に知って欲しい。(30代男性)

「豊穣の海」三島由紀夫

豊饒の海 春の雪

<あらすじ>
維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の若き嫡子松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、〈禁じられた恋〉に生命を賭して求めたものは何であったか?――大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く。現世の営為を越えた混沌に誘われて展開する夢と転生の壮麗な物語『豊饒の海』第一巻。

東洋思想が反映された芸術的長編小説

豊穣の海は、『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の全4巻から構成されています。
特に高校生にお奨めです。多感の10代の、知性も備わってきている時期に、このような美しい文章に奏でられる貴族社会の恋愛と、神道、仏教の思想も感じられる長編小説は、日常から自分を大きく引き離してくれる。読むと、東洋思想や精神性を考えるきっかけになるかもしれないし、三島のただただ美しい文体に魅了され、日本語の美しさに開眼するかもしれないし、三島そのものに興味を持つかもしれません。いずれにしても大きな意味を与えてくれます。

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