秋の深まりを感じる、秋が舞台の小説たち
季節が秋の小説を集めてみました。
涼しくなってきて過ごしやすくなる秋。紅葉など深まる秋は自然の美しさがあると同時に一抹の淋しさも感じます。
そんな季節の秋を舞台とした小説10作品をご紹介します。秋の夜長にゆっくりと読んでみてはいかがでしょうか。
「眠れる美女」川端康成
波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館だった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女――その傍らで一夜を過す老人の眼は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視していた。
自身の死がそう遠くないことを悟りつつある老人の目を通じて若い肉体の瑞々しさを見つめる、濃厚で官能的な物語
紅葉の色が紅く染まる頃、とある海辺の秘密の宿にて。語り手である老人の江口は、真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室で、"眠らされた若い女と一緒に一晩ただ眠る"サービスを利用する。
思いがけず病みつきになった江口が足繁く宿に通うさまからは、人間の生に対する執着や若く瑞々しい肉体への羨望が濃厚に感じられ、つい他人事ではない気がして引き込まれてしまう。ビロードの部屋のぴんと張り詰めた静寂が、そうした人間の生々しさを不思議と緩和し、読み心地の良い美しい文章となっている。(20代女性)
「秋」芥川龍之介
従兄で作家志望の「俊吉」と結婚するはずだった才媛の「信子」は別の青年と結婚し、妹の「照子」と「俊吉」が結婚する。「信子」は自らの寂しさを秋と思う。芥川の作風の新境地として評価された現代小説。
姉妹愛と嫉妬の心を表す秋
姉妹愛とそれゆえの三角関係という一見激しい題材ですが、季節の情緒と女性の心の模様を秋で淑やかに静かに表していました。
冬に向けて葉っぱが落ちてゆくように、幸は続かないもの、だけどそれぞれまた季節が巡る。
タイトルは秋だけれど、秋にとどまらない季節と人生の巡りを、静かに押し付けることなく、女性の恋という形で訴えかけているのが伝わる作品でした。(20代女性)
「秋の牢獄」恒川 光太郎
11月7日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。朝になれば全てがリセットされる日々。この繰り返しに終わりは来るのか──。圧倒的な切なさと美しさに満ちた傑作中編集。
秋の静けさや冷たさと、ミステリアスな描写がマッチしている作品
この作品は、11月という冬に差し掛かってきた秋を舞台にしています。そのため、小説の描写の中にも肌寒さや秋の冷たさを感じられるような描写がたくさんあるのが印象的でした。
同じ一日を何度もループしてしまう女性の物語なので、最終的にどうなってしまうんだろうという興味を常に引き付けられます。少し怖さのある部分も、秋の冷たさとマッチしています。(20代男性)
「錦繍」宮本輝
私はあなたにまさにひと目惚れでした。
愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年を隔て再会した――。往復書簡がそれぞれの過去と思慕を炙り出す。恋愛小説の金字塔。
哀愁漂う大人の恋愛物語
表紙は紅葉が一面となっていてこの時点で秋を感じることができましたし、物語も哀愁感のある大人の恋愛なので、秋といった舞台には非常に合っていました。
また、大人としての恋愛感情のすれ違いなどを手紙で表現されているので、読んでいても感情が伝わってきやすく、特に秋の夜長にしんみりしながら読むには最適だと思います。(30代男性)
「夜のピクニック」恩田陸
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。
学校行事で歩く中で、人生の歩みをも考える青春物語
秋の夜長に学校行事で開かれるピクニックを舞台にした物語です。夜の道をゴールに向かって生徒達が歩く中で、主要人物達が会話を行って心の共有を計ります。主要人物の中には、一般家庭とは異なる少し複雑な都合を持つ家庭環境で育った者もいます。そういった環境の中で、若者のありのままの心理が語られる点に高いリアル性があります。友情、恋愛などをテーマにした若者心理が見える物語で、秋の夜に読むのにマッチします。(30代男性)
「夜のピクニック」の関連テーマ
「秘密」谷崎潤一郎
大人の楽しみはこれです。
主人公の男が、秋に、都会の喧騒に飽き、東京の下町の裏路地にある、寺近くに住居を構えるところから始まります。夜な夜な女装など密かな楽しみを持ち、昔の女と偶然再会し、秋の淋しさと人に隠れて繰り広げる秘密の喜びを感じられます。秘密を持つことの楽しみ、秘密の持つ力を感じられる作品です。
もともと谷崎潤一郎が好きでしたが、短編の中で特に好きな作品です。「秘密」の持つ蠱惑的な魅力に共感できます。(30代女性)
「風立ちぬ」堀辰雄
高原のサナトリウムで私は療養中の恋人・節子と時を過ごす。私たちは魂の触れあいを重ねるが、次第に時間は限られたものとなってゆく。恋人たちの生の瞬間を描きとめた「風立ちぬ」など珠玉の6編を収める。
限られた時間を愛する人のために使うこと
ある日、主人公は軽井沢で1人の女性と出会います。後に婚約したのですが、婚約者の女性は不治の病に侵されてしまいます。
物語では、病気の治療のために訪れた八ヶ岳のサナトリウムでの穏やかな生活が自然の美しさとともに綴られています。冬を迎えようとする八ヶ岳で、病に侵された婚約者を前に主人公は何を感じて生きていたのでしょうか。そして、婚約者は病を治すことができたのでしょうか。(60代女性)
「青雷の光る秋」アンクリーヴス
嵐の直撃で交通が途絶したフェア島で殺人が発生。故郷である島に偶然帰っていたペレス警部の捜査が始まる。現代英国ミステリの至宝〈シェトランド四重奏〉堂々の最終章。
最終章にして、最高のミステリ
シェトランド四重奏の最終作。シェトランド署の警部ジミー・ペレスは、婚約者フラン・ハンターを連れて、故郷のフェア島へ。二人の婚約パーティーが開かれた直後に、殺人事件が起こる。
今回は、ジミー・ペレスの魂の物語といってもいいぐらいの展開です。衝撃のラストでした。 最新刊の7作目から、読み始めたのですがこの4作目は、かなり重要な作品でした。(20代男性)
「秋の花」北村薫
幼なじみの真理子と利恵を待ち受けていた苛酷な運命――それは文化祭準備中の事故と処理された一女子高生の墜落死だった。真理子は召され、心友を喪った利恵は抜け殻と化したように憔悴していく。ふたりの先輩である〈私〉は、事件の核心に迫ろうとするが……。生と死を見つめ、春桜亭円紫師匠の誘掖を得て、〈私〉はまた一歩成長する。
女子高生の友情と「私」の成長
主人公の「私」がワトソン役になり、ホームズである落語家の円紫さんと共に、日常の謎を解読していく、「私と円紫さん」シリーズの3作目です。
この作品は、「私」の卒業した高校の文化祭をめぐって起こった事件を先輩である「私」と円紫さんが解決していくお話です。タイトル通り、秋の花がキーポイントになってきます。文化祭の頃の少しひんやりとした空気の中、静かに進むお話です。(40代女性)
「羊と銅の森」宮下奈都
ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。
ピアノを愛する姉妹や先輩、恩師との交流を通じて、成長していく青年の姿を、温かく静謐な筆致で綴った物語。
ピアノ調律師の友情物語
「羊と鋼の森」は北海道の高校生がある日、ひょんなことからピアノ調律師の板鳥と出逢いそこから自分も専門学校を卒業してピアノ調律師の見習いとして板鳥の元で働き始めます。ですが、なかなか自分の力を発揮出来ずに思い悩み、調律師を続けて行こうか迷ってしまいますが、それでも周りの温かい声に励まされ最後まで頑張る姿に感動しました。(20代女性)
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