東北地方が舞台の小説
作家・伊坂幸太郎さんは東北の仙台在住で、ここでは2作品ほどご紹介しましたが、これ以外でも「ゴールデンスランバー」など仙台を舞台とした作品はたくさんありますね。
青森・宮城・福島などの東北地方を舞台としたおすすめの小説7作品をご紹介します。
「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎
<あらすじ>
妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL……。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。
静かな夜にはもったいないほどの起承転結
かのクラシックの名曲『アイネクライネナハトムジーク』が少し絡んできます。
恋愛小説のようでいて、青春友情小説でもあり、キャリア小説でもある。
すこし抜けた感じの小説のコアと敢えて書くことのプロである作家・伊坂幸太郎さんの作品。その中で、笑いよりもハートフル要素が強いわたしにとって印象的なものがたりです。(20代女性)
普通の人々の出会いと成長
伊坂幸太郎小説の醍醐味がたっぷり詰まった作品です。今回の作品は、ドキドキするというよりはほんわか系。謎のじむしょくの男の正体とは?のストーリーが好きでした。私もこんな奇跡の出会いがあればなと少し憧れました。元気なったりちょっと切なくなったり、楽しく読めました。映画版もありますが、先にこちらを読んでよかったなと思います。(30代女性)
「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎
<あらすじ>
大学入学のため引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。標的は――たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ! 四散した断片が描き出す物語の全体像とは? 注目の気鋭による清冽な傑作。
様々な人の想いが錯綜する先の読めないストーリー
先が気になるストーリーで一度読み始めたら次が気になって最後まで一気に読んでしまいました。登場人物みんなに感情移入して一緒にドキドキハラハラしてしまいました。今まで読んだことがないようなあっと驚くラストが魅力の作品です。作中の会話や文章にセンスが感じられるので読んでいて退屈するということがなく最初から最後まで面白く読むことができました。(30代女性)
ある男が犯罪を犯した話
この物語は現在と過去の話を交互に繰り返しながら真実へとたどり着く物語です。
現在の語り部は大学生の男、椎名。椎名は突然隣人の河崎に「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けられるところから話は始まります。
過去の語り部は琴美という女性です。琴美はとあることから犯罪者に目をつけられてしまい襲撃されるのですが、恋人のドルジや河崎と共に犯人たちを捕まえようと奮闘します。
現在と過去が組み合わさり、伏線が回収され衝撃の事実が判明する様は、爽快感と寂寥感が混ざった不思議な読後感を味わわせてくれます。(30代女性)
「護られなかった者たちへ」中山七里
<あらすじ>
本当に“護られるべき者"とは誰なのか
怒り、哀しみ、憤り、葛藤、正義……
万般の思いが交錯した先に導き出される切なすぎる真実――。
護られる側の人間の苦悩と護る側の人間の苦悩
物語は仙台市内のアパートの一室で手足を拘束された状態で口をガムテープで塞がれた男性の餓死死体が見つかる事から物語が始まる。
その数日後に同様の手口で宮城県議員が死体で発見される。両者共に恨みを買うような出来事や噂が無いが共通点があり同時期に福祉事務所で働いていた。
何故犯人が被害者を餓死させるのか、何故彼らを殺そうと思ったのか、何故この題名なのか、その理由に気付いた時きっと涙を流すだろう。(20代男性)
「聖地Cs」木村友祐
<あらすじ>
わたしは、もう、イヤなんです。死なせるのはもう。だから、なかったことには絶対しない──。原発事故による居住制限区域内で被曝した牛たちを今も飼い続けている牧場で、東京からボランティアに来た女性が見たものは──。原発事故問題を真正面から見つめて真摯に描いた表題作と「猫の香箱を死守する党」の二篇を収録。
原発事故の悲惨さと、人間の感情の変化を情感たっぷり描く
東日本大震災時の原発事故によって放射能汚染された福島が舞台です。
ボランティア活動に様々な地域から福島に集ってきた人々それぞれに、何かしら深く重く抱えているものがあり、胸にずしりと響きました。主人公らの心情の変化が手に取るように伝わってくるため、普段はあまり読書しない自分でも、次々とページが進んだものです。
コミカルさこそは皆無ですが、こういう状況にさせることを”面白い”作品と称するのだと思います。また情景描写が豊かなため、まるで自分が現地でボランティア活動しているかの気持ちになりました。この作品を通して、被災地の苦しみをほんの少しですが触れた気がします。
一人間がどんなに頑張っても放射能に汚染された大地や動物たちは、簡単にその事実を翻せません。現実は困難の連続ですが、自分を見つめなおし変わっていく主人公に、不思議と前向きな気持ちになれる作品でした。(40代女性)
「邂逅の森」熊谷達也
<あらすじ>
山の民「マタギ」に生まれた青年・松橋富治は、身分違いの恋が災いして秋田の山村を追われ、その波乱の人生がはじまる。何といっても圧倒されるのは、山のヌシ・巨大熊とマタギの壮絶な対決。そして抑えつけられた男女の交情の色濃さ。当時の狩猟文化はもちろんのこと、夜這い、遊郭、炭鉱、男色、不倫など、近代化しつつある大正年間の「裏日本史」としても楽しめる冒険時代小説です。長篇小説ならではの面白さに溢れた、第131回直木賞受賞作!
厳しい大自然と人間の知恵
大正時代の秋田県を中心とした東北地域の山々で活動していた狩猟を専業とするマタギが主人公の物語です。タイトルの通り東北の森(山林)で邂逅する人と大自然の厳しい生活を赤裸々に描いた作品で、日清日露戦争当時の状況を交えながら山岳地域で暮らすマタギの生活に迫る臨場感あふれる描写は、読み進めていくほどに引き込まれていきます。(50代男性)
「直木賞」関連のテーマ
「津軽」太宰治
昭和19年、風土記の執筆を依頼された太宰は三週間にわたって津軽半島を一周した。自己を見つめ、宿命の生地への思いを素直に綴り上げた紀行文であり、著者最高傑作とも言われる感動の一冊。
主人公を通してみた太宰治の人生の振り返りの物語
著作「人間失格」でも有名な小説家の自叙伝とも紀行文とも言える作品。
久方ぶりに出生地に戻ることとなった主人公(太宰治ではない)が、地元に帰るついでに津軽(青森県の一地方)をこの機会に巡ってみようと思い立ち、色々と見て回り感じたことをつらつらと語るという内容。
青森県の当時(一部は今も)の雰囲気や日常を感じられるものを主人公を通して語る太宰治の物語(30代男性)
文芸作品関連のテーマ
「漁港の肉子ちゃん」西加奈子
<あらすじ>
北の港町。焼肉屋で働いている肉子ちゃんは、太っていてとても明るい。キクりんは、そんなお母さんが最近恥ずかしい。肉子ちゃん母娘と人々の息づかいを活き活きと描いた、勇気をくれる傑作。
「親子」のかたち、ダイバーシティと子どもたち
物語の設定は日本海側の架空の港町になっていますが、宮城県の石巻市と女川町がモデルとなって書かれた作品。
天真爛漫な「肉子ちゃん」と、その娘の「キクコ」が物語の軸です。二人は関西から、ある港町にやってきます。全然似ていないことを少し気にしながらも、奔放な「肉子ちゃん」を放っておけなくて、「肉子ちゃん」と呼びながらキクコは慕います。その裏で、クラスになじめなかったり、「肉子ちゃん」の奇行や奔放さに振り回されながら、「本当のお母さん」を探していきます。
思春期にまま見られる「本当の親」への願望と、漁港の住民たちとの交流、「肉子ちゃん」なりの思いやりなど、人間の温かさを小学五年生で少し大人びたキクコの目線から描かれ、とても感動しました。最近アニメ映画化もされた注目の作品です。(20代女性)